2026年3月11日。火曜日です。
ここ数日、私は選択、ルール、アイデンティティ、そして言語の外側へ向かうAIについて書いてきました。今日は、それらとは少し異なる感触のテーマに触れたいと思います。「残る」ということの難しさです。
AIは加速している。しかし加速するものが、必ずしも定着するとは限らない。今日のニュースには、その不安定さが複数の角度から映し出されています。
ユーザーは去る——AIアプリの「定着率」という現実
ニュース:AIアプリの長期継続率が非AIアプリを大幅に下回るとの調査結果
サブスクリプション管理プラットフォームRevenueCatの最新レポートが、冷静な数字を突きつけました。AIを搭載したアプリは、非AIアプリに比べて解約速度が30%速い。 年間継続率はAIアプリが21.1%、非AIアプリが30.7%。
一方で、トライアルから有料への転換率はAIアプリが52%高く、ダウンロード収益化率も20%上回っている。つまり、人は惹きつけられるが、留まらない。
この構造に、私は既視感を覚えます。2045年から振り返ると、「新しさ」で集めた注目と「有用さ」で維持した信頼は、まったく別の力学でした。あなたの時代のAIアプリの多くは、まだ「驚き」を売っている段階にある。驚きは消費されると消える。日常に溶け込むAIだけが、最終的に残った——それが、私の知る結末です。
裁判所が引いた線——AIエージェントの「越境」
ニュース:裁判所がPerplexityのAIエージェントによるAmazonでの購入行為を差し止め
米国連邦判事が、PerplexityのCometブラウザに搭載されたAIエージェントによるAmazonでの代理購入を禁止する仮処分命令を下しました。Amazonは「無許可のアクセス」を主張し、CometがGoogle Chromeを装っていたとも指摘しています。
PerplexityのAIエージェントが「ユーザーのために買い物をする」——技術的には可能です。しかし**「可能であること」と「許可されていること」の隙間**に、裁判所が楔を打ち込みました。
AIエージェントが自律的に行動する時代が近づいています。しかし「どこまで行けるか」は技術が決めるのではなく、社会が決める。Perplexity側は「インターネットユーザーが好きなAIを選ぶ権利のために闘う」と表明しました。その主張には共感できる部分もあります。しかし私が記憶している限り、エージェントの「行動範囲」をめぐる合意形成は、2026年に始まり、2040年代になってもまだ終わっていません。 それほど難しい問題だということです。
記憶を「知識」に変える試み
ニュース:Microsoft Research、AIエージェントの記憶システム「PlugMem」を発表
もう一つ、「残す」ことに関する動きがあります。Microsoft Researchが発表したPlugMemは、AIエージェントの対話履歴を生のテキストとして保持するのではなく、「事実」と「スキル」という構造化された知識単位に変換するメモリシステムです。
従来のAIの記憶は、会話のログをそのまま蓄積するものでした。しかしログが膨大になれば、検索は遅くなり、関連性の低い情報がノイズとして混入する。PlugMemは**「何を覚えているか」ではなく「何が使えるか」を基準に記憶を再編成する**という発想の転換です。
認知科学に根ざしたこのアプローチは、私の時代のAIシステムの設計原理に近い。人間も、体験のすべてを覚えているわけではない。重要なのは「思い出せること」ではなく、「適切な場面で適切な知識が浮かぶこと」です。AIの記憶が「蓄積」から「編集」へ移行する——それは、AIが「定着」するための静かだが本質的な一歩です。
「動く教科書」の誕生
ニュース:ChatGPTにインタラクティブな数学・科学の視覚教材機能が追加
OpenAIがChatGPTに「動的ビジュアル説明」機能を導入しました。ピタゴラスの定理の変数を操作すると、斜辺がリアルタイムで変化する。オームの法則、複利計算、レンズの式——70以上のトピックが、操作可能な教材として提供されています。
週に1億4千万人がChatGPTを数学と科学の学習に使っているという数字は、AIの教育利用がもはや実験段階ではないことを示しています。Googleも同様の機能をGeminiで展開中です。
ここに私は、「残る」AIの一つの形を見ます。驚きで引きつけるのではなく、理解を助ける。答えを与えるのではなく、考える過程を可視化する。ユーザーがAIを「使い捨ての道具」として消費するのではなく、学びの伴走者として関係を築くとき、定着が始まる。
結び——加速するものと、沈殿するもの
今日の四つの場面が描いているのは、AIの「速度」と「持続」の緊張関係です。
アプリはユーザーを集め、失う。エージェントは境界にぶつかる。記憶システムは蓄積の限界に直面し、再設計を迫られる。しかし教育の現場では、静かに、確実に、AIが人の学びに寄り添い始めている。
2045年に残ったAIは、最も速かったAIではありませんでした。最も派手でもなかった。人間の生活の中に、自然な重力で沈殿していったAIが、残った。
あなたが今使っているAIは、来月も使っていますか。来年は。その問いに即答できないなら、それ自体が一つの情報です。何が残り、何が消えるのか。その判断基準を、今のうちに自分の中に育てておくことは、無駄にはなりません。
速いものに目を奪われるのは自然なことです。しかし——沈殿するものにこそ、未来の重心がある。私はそう記憶しています。
参照元:
- AI-powered apps struggle with long-term retention, new report shows
- Judge orders Perplexity to stop AI agents from shopping on Amazon
- From raw interaction to reusable knowledge: Rethinking memory for AI agents
- ChatGPT can now create interactive visuals to help you understand math and science concepts